地球環境変化から考える土木・環境工学の未来
地球環境問題の話をすると「暗い未来しか待っていないようで、どんよりする」とか「ああいうのは脅しだ」などと思う人がいるかもしれない。そう思う人には、とりあえずCNNやBBCでも見てもらいたい。英語の訓練にもなるし、米と英という偏った国からの情報ではあるものの日本で流布している情報の偏りよりはずっとマシである。それぞれのホームページからでもダイジェストなら見られるし、ケーブルテレビでの放送も普及している。Podcastにもある。さらに、時間とお金に余裕があったら是非、外国旅行へ行ってもらいたい。パリやローマなどの有名観光地でさえ皆さんの視野を大いに広げてくれるであろう。できれば途上国や田舎も見てほしい。ただ、くれぐれも安全には気をつけてください。
どうしてこのようなことから書き始めるかというと、百聞は一見にしかず、だからである。世界は昔も今も多くの問題を抱えている。環境破壊、貧困、戦争…。その中で、(全ての人が、ではないが)少しずつ良くしようと頑張ってきたのが、頑張っているのが、私たちの歴史であり現在である。それを実感してほしい。
日本人は、天敵がおらずヒョコヒョコと歩く南極のペンギンに例えられることがある。治 安や経済発展の面については、これまでの先達の努力の結果である。ただ、この日本という夢の国が走り続けている裏で、世界中のエネルギー、土地や水、その 他さまざまな資源が収奪されていることを忘れてはならない。それらは汚染され、枯渇への道を進んでいる。我々は天界の王宮に住む王様ペンギンで、下界を見 ないふりをしているだけである。
この状況は続かない。大きなきっかけの一つは地球温暖化問題とエネルギー問題であっ た。水問題を始めとする他の資源・環境問題も顕在化してきた。我々は化石燃料に頼らずに、自然のエネルギーと自然生態系からのサービスに頼る社会を再構築 せねばならない。頼れども収奪してはならない。ほんの200-300年前までは、ある程度、そうだったのだ。20世紀から今にかけての石油文明のほうが変だったのだ。とはいえ、数百年 前と同じ状態には戻れないであろう。人口も違う、求める豊かさや安全度も違う。新しい未来を切り拓かなくてはならない。豊かな人や先進国のためだけの新し い未来ではなく、貧しい人や途上国にもより良い未来を提供せねばならない。これを切り拓くのは間違いなく土木である。
自然の力といえば、水であり太陽光であり風であり、土であり森である。それらをどう生かして、安全で豊かで持続的な社会を作っていくか。それがまさに本来の土木である。20世紀の石油文明の下で、土木は力づくで物質優先で乱暴な方向へと舵を切 りすぎた。時間はかかるだろうが、これからは本来の、そして新しい時代の土木工学を作っていく時代である。それを担うのは皆さんである。土木・環境工学と は敢えて書かない。環境を含んでいるのは当たり前であるからだ。それぞれの風土に合った社会基盤を作らねばならない。建築に進む人もこれらのことを忘れな いで欲しい。建築もCivil Engineeringの一部である。講義では雑多なことをしゃべるだろうが、最初に伝えたい本質はこういうことである。
東京科学大学 環境・社会理工学院 土木・環境工学系 鼎研究室
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