将来の政策シナリオに基づく発電用水量の推定

修士1年 安藤 希美


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背景・目的

気候変動への早急な対策が国際社会における最重要課題と位置づけられている今、国の電源構成を考える上で、温室効果ガス排出量は最も考慮しなければならない要素の一つである。しかし、例えば同じ低炭素エネルギーでも、ほとんど水を必要としない風力発電に対して、原子力発電はその約1000倍もの量の水を、同じ量の電力を発電するのに必要とする。したがって、水不足を抱える国・地域で新しい電源を開発する際には、その電源の水需要量も考慮しなければならない重要な要素となり得る。

 

そこで本研究では、複数のエネルギー政策シナリオを想定し、全世界規模で2100年までの発電用水量を推定することにより、発電方法の選択が将来の水需要量に与える影響を評価することを目的とする。

内容

発電用水量は、発電量[Wh]と単位水量[km^3/Wh] (単位発電量を発電するために必要となる水量)を乗ずることによって算出できる。

 

将来の発電量及び電源構成は社会経済状況によって大きく異なる。そのため、気候変動の「緩和策の困難度」と「適応策の困難度」の2軸によって定義された5つの異なる社会経済シナリオを用いた(図 1)。図 2より、シナリオ毎に発電量及び電源構成が異なることが確認できる。

 

図 3に2010年の発電用水量を基準とした2100年の発電用水量増減率を示した。以下に特筆すべき点を2点あげる。

 

1点目は、「持続可能社会」における発電用水量が、全シナリオの中で最も少ないという点である。これは、「持続可能社会」は他のシナリオに比べ、水をほぼ必要としない再生可能エネルギーの割合が高いことに起因する。すなわち、環境に良い社会は水資源の発電用需要も少ないことが明らかになった。

 

2点目は、「分断社会」よりも「技術指向社会」の方が発電用水量の増加率が高いという点である。「分断社会」は緩和策・適応策の導入がともに困難であり、地球環境にとっては最悪なシナリオである。したがって、当初は発電用水量が最も増加するであろうと予想していた。しかし、①「分断社会」は経済発展が遅いため、発電量の増加率が低いこと、②「技術指向社会」は水を大量に必要とする火力・原子力発電に依存していることから、「分断社会」よりも「技術指向社会」の方が発電用水量の増加率が高くなることが分かった。